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『サヨナライツカ』と『血と骨』

『サヨナライツカ』
 『サヨナライツカ』はおそらく皆さんも良くご存知の辻仁成さんの代表作のひとつです。作家でありミュージシャンでもある多才な方です。辻さんの作品は、登場人物のその場面での表情、服の色・デザイン、身に付けたアクセサリーから、指の動き、コーヒーカップの柄、コーヒーの味、そしてテーブルクロス、調度品、壁紙、カーテン、日差しの強さまで細やかな描写がなされ、彼の世界での出来事が展開します。この表現力は、辻さんにしか出来ない素晴らしいものです。まさに辻ワールドです。ただ、私は実のところ時々自分の持つイメージとの違いが出たときにこの細やかな描写が、かえって私の想像力の邪魔すると感じるときがありました。ところが、この『サヨナライツカ』は、辻さんと最後まで意見が一致した作品でした。(まあ、辻さんにしてみれば他の作品と同様な表現をなされたのでしょうけど・・・)
正直に書きますと、人生においてこんなに素晴らしい出会いと別れそして・・・。仕事においても順風満帆な人生はありえないでしょうけど。日々仕事で忙殺されながら人生の舵取りをいつも間違え、それでもこれが正しかったと自分に言い聞かせ、まもなく五十の大台に乗ろうとする私には、純粋に『いいなー』という感想。本当に自分が、この立場に立ったら大変な修羅場でしょうけど。振り返ると過去の切ない思い出がある人生、それは素晴らしい事ですね。

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 『サヨナライツカ』辻仁成著 世界文化社刊


 『血と骨』

 『血と骨』は、映画化されビートたけしさんがの主演で話題になった梁石日(ヤン・ソギル)さんの作品です。私は、映画はあまり見ないのでこの映画も見ていません。暴力シーンが話題になりましたが、原作でもその描写は、本から血飛沫が飛び出しそうな(大げさでもなくほんとにそうです)迫力です。在日問題を取り上げたものかと思っていましたが、金俊平という済州島出身の男の壮絶な人生を描いたノンフィクションに近い小説です。戦前・戦中・戦後の大阪でその日生きることがぎりぎりの状況の下、この小説に出てくる人たちは、夢や目的もなく日々を生きている。その中で主人公の息子であり目撃者であり作者の目の前で繰り返される、酒と賭博と暴力の日々。なぜこうまでして生きていかなくてはならないのか読み進めば進む程解らなくなる。最後まで主人公の金俊平の心は見えない。振り回されながらも健気にいきえいる周りの人たちが、涙を誘う。そこまでしなければ、生きていけない時代だったのだろうか。

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