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「英語の著作権問題」の問題

 鬱陶しい梅雨が明け、夏の日差しが凶器のように照りつける私の苦手な季節がやってきました。
 さて、今回の話題も英語の著作権処理です。この数日の間に英語の著作権に関わるたくさんの皆さんとお会いする機会を得ることが出来ました。
 大学英語教科書協会の会議にお招きいただき入学試験問題の英語の著作物の利用状況、問題点について意見を交換させていただきました。私たちもCopyrightの表記が無い場合や不明な場合、唯一の情報である国内の出版社に尋ねざるを得ません。しかし出版者であることと著作権者であることは別で、エージェントを通じ海外のライツホルダーから許諾を得て出版されているもの、出版のために書き起こされたオリジナル文章またその著者との契約も書籍によって異なるものです。現在の状態が大学や印刷会社・塾・問題集業者とそれぞれから問い合わせが殺到し、出版社の皆さんにとっては甚だ迷惑な事態である事は推測できます。
 しかしながら、許諾無く勝手に二次利用されることは、海外のライツホルダーとの関係を考えると「出版者の責任としても適正な許諾処理へ向かうよう取り組む必要があるのではないか」というのが、今回私がお招きいただいた趣旨でした。

 また、海外著作権連絡協議会の役員の皆さんとも入学試験問題の英語の著作物の利用状況、問題点について意見を交換させていただきました。海外申請の現状と問題点を確認しあう形になりましたが、小会のように大学からの依頼で申請を行う場合、依頼者(大学)へCopyrightの提示を求めることが出来ます。ところが海外著作権連絡協議会の場合、二次的に利用する立場ですから大学へCopyright情報の提供をお願いするにとどまります。
 世界中の出版物から切り取られたワンフレーズを頼りに探すという途方もない作業です。仮に書籍が見つかったとしてもエディションが違えば、出版社が違ってきます。また振り出しに戻りながら地道な作業を繰り返しておられるようです。

 いわば大学英語教科書協会は著作権者側の団体であり、海外著作権連絡協議会は二次利用者側の団体でその中心にあるのが大学や高等学校の入学試験の英語の問題という図式になるわけです。
 双方との意見交換で問題点がかなり見えてきました。その問題点は、「出所の明示」「改ざん」「作品のセレクト」の3点に絞られます。

1.出所の明示
 国語については、9割近くが、明示されるようになりました。英語については、まだ3割程度で特に国立大学の問題に表記の無いものが多く見られます。以前に大学の問題作成担当教員の集まりでこの点を指摘したところ、「出所の明示は、その慣行がある場合であるから英語には慣行が無いから表示しなくてもいいのではないか」と質問を受けました。入試問題全般を見ると英語のみが表示をしておらず不自然にみえます。確かにCopyrightを全て載せるとものによっては丸々1ページ必要とする場合がありますので最終のホルダーの情報だけでもかまわないと思われます。問題を作成する先生方には、二次利用が前提である昨今の入試問題を考えると問題作成時からCopyright情報の保存は、必須項目として考えていただきたいものです。

2.改ざん
 設問のための虫食いやページ数の制限からの一部分の抜き取りは、国語同様にしかたの無い問題です。海外の著作権者へ許諾申請をする際もそれほど問題にはなりません。問題となるのは、文意を書き換える程の改ざんがなされている場合です。なぜそこまで書き換えるのか意図がわからないものが見受けられます。2、3文章からヒントを得て作文される場合は、オリジナルと言えるまでの推敲していただきたいものです。そうすれば許諾を得る必要も無く堂々と利用できるのではないでしょうか。

3.作品のセレクト
 また、「高校生の学力レベルに合わせるために(改ざん)」ということもよくご説明いただきますが、そうした文章を問題文へチョイスすること自体疑問を感じます。

 
 大学側にもさまざまな事情があることは、先般「入試過去問題活用宣言」の幹事をなされている岐阜大学の佐々木嘉三副学長にお会いした際にもご教授いただきました。入学試験制度が抱えるさまざまな問題の中で著作権問題が新たな負担となっていることは間違い無い事実です。かといって無視することも出来ない問題であり大学側にも適切な対応をお願いしたいところです。

 入学試験という制度そのものが、根本から変わらない以上、問題作成者と出版社、二次利用者が協力し合い、受験生へ完全な形での情報提供(過去問提供)が出来るシステムの構築が望まれます。


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