eラーニングと著作権

eラーニングと著作権
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eラーニング教材の著作権処理

eラーニング教材の著作権処理の現状

小会では、eラーニング教材に利用された第三者の著作物の権利処理を行っています。学校様によって全面的な処理の委託から、部分的な処理まで様態に合わせるかたちで業務を請け負っています。処理方法は、権利者を特定し、許可を求める作業であり特別な方法ではありませんが、使われた画像や文章の著作権の有無、引用か利用かの判定等、申請前の調査等にある程度の経験と法的な知識を要するところです。

特に問題となるのは、いわゆる教育利用(法第三十五条)では、適法利用として問題とならないが、eラーニング教材としての利用は許諾が必要となるケースや、引用(法第三十二条)の解釈です。

また、現在のeラーニング教材作成には、スタジオ撮影とライブ撮影(実際に行われている授業の撮影)の2パターンがあります。当然ことながら、スタジオ撮影の場合は、事前に全ての権利処理を行って撮影に臨みますので、著作権に関してはスムーズですが、撮影コストや時間的なコストを考えると割高になります。ライブ撮影は、撮り方によっては臨場感ある映像が作れますが、著作権処理が事後処理となり、使われた著作物が必ず許諾される保障はありません。また、作成方法に関係なく古い著作物の著作権者の所在調査には、やはり時間を要する場合があります。海外の著作物利用の場合、内国民待遇とはいえ交渉の際には相手国の著作権法の知識も必要となります。

難しさばかりを述べましたが、出典さえしっかりしておれば、現状ではスムーズな対応が出来ています。多くの著作権者は、教育目的の利用に対し、好意的な反応を示されます。統計を取っていませんが、国内より海外の方が教育目的での利用に対する理解は高い様に感じます。ただし、映画やテレビ番組のような複数の権利者による著作物の場合、国内外を問わず時間的にまたコスト的にも難しいのが現状です。権利関係の複雑さがネックとなっています。



NIME(独立行政法人メディア教育開発センター:現在、放送大学ICT活用・遠隔教育センター)発行の『eラーニング等のICTを活用した教育に関する調査報告書2008』に、ICT教育での著作権処理に関する興味深いアンケート結果が出ていましたので紹介しておきたいと思います。


『eラーニング等のICTを活用した教育に関する調査報告書2.22ICT活用教育運用上の課題 (1) 著作権に関する課題や問題 P25・(2) 著作権に関する対応 P27』より抜粋


(1) 著作権に関する課題や問題

著作権に関する課題や問題について調査したところ、課題の中では、「コンテンツを開発する際の著作権処理に時間と手間がかかり、既存の素材を利用出来ない」(23.1%)が最も高く、次いで「ICT活用教育を推進するにあたって、問い合わせるところがわからない」(16.2%)、「素材等の権利者が不明で権利処理できず、コンテンツのインターネット配信ができない」(15.9%)


(2) 著作権に関する対応

次に著作権について、どのような対応を行っているか調査したところ、「著作権処理が必要ないコンテンツを利用している」(39.4%)が最も高く、次いで「コンテンツ制作者が個別に対応している」(31.6%)となっており、上位2項目への回答率が高く、前述の「(1)著作権に関する課題や問題」で回答率の高かった「コンテンツを開発する際の著作権処理に時間と手間がかかり、既存の素材を利用出来ない」(21.2%)ことが原因とも考えられる。著作権処理のコンテンツ作成者による個別対応が、教員負担の一因となっていることも考えられ、組織的な対応等の支援が求められる。

今後の展望

著作権制限の一般規定(日本版フェアユース)の導入によってeラーニングでの著作物の権利処理の負担が軽減されるのではという期待の声がありましたが、仮に法案が成立したとしても、利用者側の思惑とはかなり離れたものとなりそうです。


「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」の「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する最終まとめの概要(平成22年12月)」によると『権利制限の一般規定の内容』として3つの類型が挙げられています。



以下「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する最終まとめの概要」から転載


A. 著作物の付随的な利用

その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用 であり、かつ、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

例)写真や映像の撮影に伴ういわゆる「写り込み」


B. 適法利用の過程における著作物の利用

適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作 物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

例1)CDへの録音許諾を得た場合におけるマスターテープ等中間過程での複製
例2)漫画のキャラクターの商品化を企画し、著作権者に許諾を得るにあたって必要となる社内用企画書等における当該漫画の複製


なお、AからCの類型の利用行為であっても、権利者の利益を不当に害する可能性が否定できないため、社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを追加の要件とする等の方策を講ずることが必要。


その他の利用行為

・ 特定の利用目的を持つ利用 (障害者福祉、教育、研究、資料保存といった目的の公益性に着目した利用)

・ 既存の個別規定の関係を慎重に考慮する必要があり、必要に応じて個別規定の改正・創設により対応することが適当。

・ パロディとしての利用については、いかなるパロディを権利制限の対象とするのか、現行法の解釈による許容性、同一性保持権との関係等、検討すべき重要な論点が多く、権利制限の一般規定にその解決を委ねるのではなく、必要に応じて個別規定の改正・創設により対応することが適当。



本最終まとめを読む限り、写り込みと中間生成品、技術的な一時的な複製に留まり、eラーニング教材作成では、書籍の表紙の写り込みやグレーゾーンであった編集作業のための一時的な蓄積が認められるに過ぎないと思われます。ただし、「その他の利用行為」として教育目的での利用について「必要に応じて個別規定の改正・創設により対応することが適当」とされています。 これまでにも平成14年の法制問題小委員会では、「教育」「図書館」に係る権利制限の見直しが検討されています。また、平成17年の法制問題小委員会では、サーバーへ情報を蓄積するeラーニング教材についての言及もみられたが、結果的には、「教育行政及び学校教育関係者からの,指摘された問題点や実態を踏まえた運用の指針等を含む具体的な提案を待って,改めて検討することが適当である。」と結論づけられています。その後、直接eラーニングに関する審議は行われておらず、また学校教育関係者からの提案もなされていません。


今後、学校教育においてeラーニング教材が必要な教材となるのか、またeラーニングとは違うものが生まれてくるのかは判りませんが、少なくとも学校教育関係者の統一した意見としてeラーニング教材を含めたICTを活用した教育利用での著作権の位置づけと権利処理の方法を提案する必要があるのではないでしょうか。



文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の検討状況について(平成14年7月30日)より抜粋


・ 昨年の「審議経過の概要」における提言に基づき、権利者・利用者の双方により「教育目的の利用」及び「図書館等における利用」について行われていた協議の結果を踏まえ、

(1)第35条の適用を受ける複製行為の主体に「学習者」を加えること

(2)第35条の規定により複製された著作物等を遠隔地で授業を受ける生徒等に無許諾で送信できるようにすること

(3)第36条の規定により複製された著作物等を遠隔地にいる者を対象とした試験を行うために無許諾で送信できるようにすること

(4)技術の変化により「再生手段」の入手が困難となった図書館資料を保存するため新たな方式で複製する場合を第31条の適用を受ける複製行為に加えること

(5)第38条第5項に規定されている非営利・無料の貸出に係る補償金の対象を「書籍等」に拡大することについては、実現させる方向とすべき。

・ ただし、(5)については、権利者側・図書館側双方が,具体的な補償金制度の在り方について検討したいという意向があることから、当面その検討を見守ることとし、その結論が得られた段階で改めて具体的に検討すべき。

・ その他の事項については、引き続き検討を行うこととすべき。


文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過(平成17年8月25日)より抜粋


1.eラーニングが推進できるように、学校その他の教育機関(営利を目的として 設置されているものを除く)の授業の過程で使用する目的の場合には,必要と認められる限度で、授業を受ける者に対して著作物を自動公衆送信(送信可能 化を含む)することについて

eラーニングの実態を勘案すると、異時送信による利用にも権利制限を及ぼすべきであるとする意見もあった。しかし、履修者の数が大きくなれば、実質的に「著作者の利益 を不当に害することとなる場合」に該当してしまうのではないか、著作物が授業を受ける者以外の者に流通し著作権者の利益に悪影響を及ぼすのではないかなどとして、慎重な検討が必要とする意見があった。また、仮に法改正を検討する場合には,恣意的な解釈による運用を回避するために、教育機関の種別や態様に応じたガイドラインを設けるなど明確化を図る措置が併せて講じられるべきとする意見があった。一方、教育現場に おける著作物の利用に関しては、一部私立学校関係者等において補償金による権利処理の実験的な取組みが行われているところでもあり、実態も十分踏まえた上で検討する必要があるとの意見があった。

したがって、本件については,著作権の保護とのバランスに十分配慮するため、いかに要件を限定しつつ、eラーニングの発展のために必要な措置を組み込むべきか、上記の 指摘を踏まえた、教育行政及び学校教育関係者による具体的な提案を待って、改めて検討することが適当である。


2.第35条第1項の規定により複製された著作物については、「当該教育機関の 教育の過程」においても使用できるようにする(目的外使用ではないこととする)とともに、教育機関内のサーバに蓄積することについて

授業の質を高めるために、同じ教育機関の内部で情報の交換・相互利用は有意義であり、可能な限り認められるべきだとする意見もあった。しかし、「当該教育機関の教育の過程」の定義が不明確ではないか,教育機関のサーバに蓄積することにより得られる利益に比して目的外使用の危険性がきわめて高いことなど権利者の利益を不当に害する ことがないかという点の検証が必要ではないか、教育機関(利用者側)のサーバに大量の他人の著作物を蓄積することの意味を明確にする必要があるのではないかなどとして、慎重な検討が必要であるとする意見があった。また、サーバへの情報の蓄積及びその情報の利用に関する詳細なガイドラインを設定することが必要ではないかとの指摘があった。

以上のことから、本件については,教育行政及び学校教育関係者からの、上記指摘や実態を踏まえた運用の指針等を含む具体的な提案を待って、改めて検討することが適当である。

参考文献

■著作権法逐条講義 加戸守行著 社団法人著作権情報センター刊
■著作権法詳説 三山裕三著 雄松堂出版刊
■詳解著作権法 作花文雄著 ぎょうせい刊
■アメリカ著作権法の基礎知識 山本隆司著 大田出版刊
■文化庁ホームページ
■社団法人著作権情報センターホームページ
■『eラーニング等のITCを活用した教育に関する調査報告書2008」NIME(独立行政法人メディア教育開発センター)発行


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