eラーニングと著作権

eラーニングと著作権
1

著作権法からみた対面授業とeラーニング

本稿でのeラーニングの定義

学校教育で行われるeラーニングは、いわゆるICTを活用したインターネット、イントラネットを使うものが一般的ですが、近年iPadやアンドロイド携帯といった、モバイル端末を利用したネットワーク向けのコンテンツの開発も盛んになってまいりました。他にも放送大学のようにBS放送を利用する方式や、CS放送、ラジオ放送と様々な方式が存在します。それぞれの送信形態によって、関係する条文に違いがありますが、ここでは、最も一般的な方法であるサーバーに蓄積したコンテンツ(eラーニング教材)をオンデマンドにインターネットを利用して配信するWeb配信型eラーニングを中心に説明させて頂きます。

紙からデジタルへ

90年代半ばまで、大学の講義と言えば、教授の著書を学生が購入しテキストとして利用していました。また、時々新聞や専門書のコピーが資料として配られ板書によって進められる。というのが標準的な講義スタイルでした。今では、パワーポイントを使った講義が増え、資料もパワーポイントからのプリントアウトという講義も珍しくありません。ここまでのデジタル化なら著作権法第三十五条に定める「教育機関における複製等」の権利制限内で行うことができます。eラーニングは、授業が教室を飛び出し、学校の塀を越え世界中どこからでもアクセス出来る授業です。著作権法第三十五条で定める授業等の複製の基本的な考え方は、教室内で先生と生徒が使うという場面を想定していますので学校外からのアクセスは論外となります。平成16年の著作権法改正で第三十五条に公衆送信(インターネット)を用いた別会場での同時進行の遠隔授業が認められるようになりました。しかしあくまでリアルタイムの授業で、なおかつ授業が行われる場所に生徒がおり、先生がスタジオ等生徒のいない場所で行う授業を生徒にいる別の場所へ送信するという方法は許されません。


次に挙げる3つケースが著作権法第三十五条の権利制限を超え著作権侵害となる代表的例です。


1.同時に教室にいない学生が、指導教員等のいない場所(例えば自宅等)で受講できるようにすること。


2.後日、終了した講義を視聴できるようにすること(オンデマンド)。


3.教室で開講されていない講義を視聴できるようにすること(eラー二ング専用教材の制作)。


まるでeラーニングの魅力的な部分は、全て著作権に抵触するように感じられます。ただし、コンテンツ(eラーニング教材)の中に第三者の著作物を利用していなければ、全く問題ありません。またeラーニング教材の本格的な開発を考えれば、第三十五条の枠組み以外の方法を考える必要があるのかもしれません。

関連する著作権法

第三十五条(学校その他教育機関における複製等) 詳細

著作物の種類と権利

著作権法では、第十条(著作物の例示)で、権利保護の対象となる著作物の例を挙げています。また、2項で事実の伝達に過ぎない雑報や時事の報道は、著作物に該当しないとされています。第十条に該当する第三者の著作物を利用して講義を行った場合、eラーニング教材化するためには、以下の点に注意が必要です。


【小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物】
 文章の場合、どの程度の文字数までなら良いかという質問を受けることがあります。例えば、俳句なら17文字で成立する文学ですので、著作権が認められます。同じ様な文字数でもキャッチコピーやニュースの見出しは認められないようです。また、何百頁もある論文の数行程度の場合、使い方によっては引用として利用出来る場合もあります。


【音楽の著作物】
 授業で音楽を演奏するのは、第三十八条の営利を目的としない上演に該当するから許諾不要とされています。しかしeラーニングの場合、サーバーに複製しますので許諾が必要になります。


【絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物】
 授業で美術品のオリジナルを扱うことは少ないと思われます。殆どがその複製を観賞することになると思われます。美術品の場合の権利は、『美術品の持ち主=所有権』『作者=著作権』です。著作物の利用料を支払う場合、所有者、著作権者のどちらへ支払えば良いのでしょうか?答えは、著作権者です。
 例えば、レオナルドダビンチの「モナリザ」をeラーニング教材として利用するとします。所蔵するルーブル美術館へ連絡をすれば、使用料を求めてくるかもしれません。著作権法では、絵画の著作権は著作者の死後50年で保護期間は終了し、「モナリザ」は、すでにパブリックドメインのはずです。この場合の使用料の請求は、著作権ではなく所有権に対するものです。eラーニング教材での利用の場合、オリジナルを新たに撮影するものではなく、写真集等で公表されたものの二次利用になります。この場合、「モナリザ」の所有者と直接の契約者は、写真集を出版した出版社であり、eラーニングでの利用は、著作権の切れた著作物の著作権の生じない複製写真を利用しただけで、この場合、著作権は発生しないものと考えられます。
 気をつけなくてはならないのが、美術品の写真の被写体です。絵画や版画等平面作品の写真は複製として写真家の著作権は発生しないとされていますが、彫刻や陶芸等立体の写真の場合は、ライティングやフレーミング、露出等により写真家の創作性が認められるとして写真家の著作権が認められるケースがあります。


【地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物】
 白地図は、著作物ではないが、目的を持ってデザインが施されたものについては著作権が生じるとされています。例をあげれば、海岸線がいくら精密に描かれていてもそれは事実であり創造的に描かれたものではないので、著作物ではないと解釈出来ます。また、降水量や農産物の収穫高は、事実に過ぎませんから著作物ではありませんが、その数値をもとに研究され描かれた図表等は、学術的な性質を有するものとして著作権が生じます。心電図やレントゲン写真も学術的な性質を有するものであれば、著作物権が生じます。
 図表の著作物の場合、注意しなければならないのは、数値や項目等、構成する要素を改変してはならない点です。


【写真の著作物】
 写真の創作性の要件として、ライティング、フレーミング、トリミング、露出量等があります。教材作成の都合等からあるいは、被写体まわりに授業のテーマと関係のないものがあるからといって、トリミングしたり切り抜いたりすると同一性保持権(第二十条)の侵害となりますので素材から選び直す必要があります。

関連する著作権法

第十条(著作物の例示) 詳細

著作権処理が不要な著作物

著作物であっても『権利の目的とならない著作物』と『著作権が切れた(保護期間を過ぎた)著作物』は、許諾を得る必要がありません。

まず、権利の目的とならない著作物ですが、著作権法では、第十三条で権利の目的とならない著作物を例示しています。

法令や告示、訓令、通達の類ですが、これらは遍く国民全員に広めなくてはならないものです。また判例等も広く周知されるべきことですので、保護が必要ないとされています。ただし、白書・報告書の類で高度な学術的要素を持つものは一般の通達等とは区別され保護の対象となるとされています。

著作物の保護期間については、著作権法第五十一条から五十八条に決められており、原則として保護期間は、著作権者の死後50年(法人著作物においては公表後50年、映画の著作物においては公表後70年)とされていることは周知の通りです。この期間を経過した著作物に関しては、パブリックドメインとして誰もが自由に利用することができます。海外の著作物においてもベルヌ条約加盟国およびマラケシュ協定を批准する国間の著作物の保護は、その本国の著作権法によって保護することが決められていますので国内の著作物と同等の保護を行えばよいとされています。これを『内国民待遇』といいます。

関連する著作権法

第十三条(権利の目的とならない著作物) 詳細

引用

もうひとつ、著作権者の許諾を得ずに利用出来る場合があります。それが引用です。引用であるか利用であるかの判断は、利用者と権利者とでその解釈に隔たりが大きいもののひとつです。その理由として、私たちは日常的に他人の見聞を例として引き合いに出しながらコミュニケーションを行っており印刷物や録音といった固定をしない場合は、ほとんど無意識に引用あるいは使用を行っています。引用であれば、引用元の著作権者の許可無く使うことができます。

著作権法第三十二条の引用として利用するためには次に挙げる条件を満たす必要があります。


・ 公表された著作物であること。


・ 自分の論説が『主』で、引用がその論説を補強あるいは実証するための『従』のいわゆる主従関係であること。


・ 段落を変えるあるいは括弧等で括る等、自分の文章との明瞭な区分けを行うこと。


・ 必要最小限度であること。


・ 出典を明記すること第四十八条第1項第一号(出所の明示)。


この5つの原則を守らなければ引用にあたらない一般利用となります。時々、著作者から「勝手に引用された」という相談を受けることがあります。引用は勝手にやってよいのです。『改変』されていたり『出所の明示』がなされていなかったり自分の文章と他人の文章の個別が判らない様な使い方をされた場合は、上記の5原則が守られていないので著作権侵害となります。

関連する著作権法

第三十二条(引用) 詳細

参考文献

■著作権法逐条講義 加戸守行著 社団法人著作権情報センター刊
■著作権法詳説 三山裕三著 雄松堂出版刊
■詳解著作権法 作花文雄著 ぎょうせい刊
■アメリカ著作権法の基礎知識 山本隆司著 大田出版刊
■文化庁ホームページ
■社団法人著作権情報センターホームページ
■内閣官房知的財産戦略推進事務局ホームページ


Page Top