2012法改正

平成24年(2012年)法改正


1.いわゆる『写り込み』(付随対象著作物の利用)等に係る規定の整備


平成21年から文化審議会著作権小委員会で検討されてきた、権利制限の一般規定(日本版フェアユース)である。今まで議論の分かれる『写り込み』や『著作物の鑑賞を目的としない利用』について権利者の許諾なく次の行為を行えるようにする。


  • テーマパークで記念写真を撮ったら後ろにキャラクター が写っていた。この写真をブログで公開したら違法?

    商店街でビデオを撮ったら、JPOPが流れていて録音されてしまった。このビデオを動画投稿サイトへ投稿したら違法?

    テレビ番組でインタビューのバックに写り込んだ著作物や街頭に流れる音楽は、権利侵害となるのか?


    法改正によって・・・

    街中を見回せば、キャラクターやポスターなど著作物が溢れていることに気付かされる。また、キャラクターがプリントされたTシャツやぬいぐるみなど身の回りも多くの著作物が存在する。写真やビデオを撮ろうとするとどうしてもこうした著作物が写り込むことがある。

    今回の法改正では、権利制限規定のひとつとして「いわゆる『写り込み』」を法的に適法とすることにより利用者が萎縮することなく、新たな著作活動が出来るようにすることを目的としている。


    1.例えばゼミの課題等で学生の写った写真の背後や周辺に有名キャラクターあるいは看板やポスター等の著作物が写り込んでいた場合、写り込んだキャラクターは、教育目的の利用ではないためトリミングする、あるいは撮影の際に写り込まないように移動させる等の配慮が必要であったが、改正後、写り込みは適法となる。


    2.意図せぬ音声の録り込みについても上記同様に適法となる。ただし、写り込みとは偶発的なものであり、意図的に配置した場合は利用と考えられるので、写り込みには該当しない。


    3.写り込みの具体的な分量としては、画面全体の2割程度までとされているので注意が必要である。


    付随対象著作物の基準とは・・・

    1.付随対象著作物の条件

    写真の撮影、録音又は録画による著作物の創作であること

    創作する著作物の主体から分離できないあるいは困難な場合であること


    2.付随対象著作物とならない場合

    モデルにキャラクターのTシャツ意図的に着用させ写真のフレーム内に著作物を入れる行為

    ドラマのセット等で写り込む位置に意図的に絵画を配置し、これを収録する場合

    BGMとして、意図的に楽曲を流し、収録する行為

    あくまでも、付随対象著作物とは、第三者による展示あるいは放送、上演が意図せず写り込んだものであること。

    関係する条文(新設

    第30条の2(付随対象著作物の利用)

    写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
    2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作 物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

  • 利用したい著作物の許可を得て利用する前に利用するかどうかの検討を行う場合、関係者への利用検討著作物の複製物の配布自体に許可が必要であった。

    権利者不明の著作物を裁定で利用しようとする場合、確認のため関係各所へ著作物の複製を添付する必要があるが、権利者の許可が必要なため複製できない。


    法改正によって・・・

    利用する著作物を決定するための会議等で、許諾前の利用候補の著作物を会議資料として、関係者に配布することが適法となる。


    1.複数の教員が担当する科目のeラーニング教材を作成する場合、教材作成に複数の教員の関与が考えられる。その際、利用予定著作物の検討資料として当該著作物を全員に複製、配布するケースが想定されるが、こうした利用の場合、私的複製には該当せず、事前に許諾が必要であった。今後こうした利用決定前の利用の場合も許諾なく複製、配布できることとなる。
    ただし、関係者以外への配布は当然のことながら認められない。


    2.裁定(第67条第1項、第68条第1項若しくは第69条)を受けて著作物を利用しようとする場合の複製においても本条が適用される。

    検討過程の著作物の基準とは・・・

    1.対象著作物の条件(下記のいずれかの利用であること)

    著作権者の許諾を得て利用する検討過程での複製

    裁定(第67条第1項、第68条第1項若しくは第69条)を受けて著作物を利用しようとする場合の複製


    2.対象とならない行為

    企画担当者以外への配布する行為

    企画担当者への配布は、『必要と認められる行為』ではあるが、その数が大人数となる場合は、『著作権者の利益を不当に害する行為』となる場合も考えられる

    許諾を得るための検討過程に必要と認められる利用とは、企画会議時等、必要最小限度の少部数の複製と考えるべきである。

    関係する条文(新設

    第30条の3(検討の過程における利用)

    著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

  • コンピュータにおける新しい技術の開発の過程や実用化の実験等で行われる複製で、複製が著作物の鑑賞等の利用目的ではない複製(第30条の4関係)

    SNSや動画投稿サイト等で投稿された情報の整理やファイル形式の統一などサイト運営のために必要な複製・翻案(第47条の9関係)


    法改正によって・・・

    教育関係では、システム開発の際のプログラム等の検証のために著作物を利用することが考えられる。大学等の研究室では、様々なデータを使った試験や実験が行われているが、その際の著作物の利用は鑑賞目的ではなく、素材として利用される。また、サイト運営のための鑑賞を目的としない複製等、技術開発又は実用化のために必要と認められる範囲において、制約を受けずに複製できることが明文化された。


    1.OCRソフトの開発にあたり、ソフトウエアの精度の向上を図ったり性能を検証したりするために小説や新聞をスキャニングしてみる行為(第30条の4関係)


    2.スピーカーを開発する場合に、性能を検証するために、著名な音楽を再生してみる行為(第30条の4関係)


    3.運営するサイトに合わせフォーマットの変換を行う行為(第47条の9関係)

    第30条の4に定める著作物利用の基準とは・・・

    1.著作物利用の条件

    公表された著作物であること

    新たな技術開発が目的で著作物の鑑賞のための利用でないこと


    2.対象とならない行為

    未公表の楽曲や文章を技術開発の過程での素材としての利用する行為

    新技術の開発のための素材としての利用を適法化するものであり、著作物の鑑賞は、目的外の利用となる。

    関係する条文(新設

    第47条の9(技術の開発又は実用化のための試験に用に供するための利用)

    著作物は、情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合であつて、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは、その必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。

参考資料

文化庁

平成24年通常国会 著作権法改正について

著作権法の一部を改正する法律

著作権法の一部を改正する法律 新旧対照条文

著作権法の一部を改正する法律 概要



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